カテゴリー「読書日誌」の105件の記事

2013年12月10日 (火)

№2176 11月には何を読んだのか

 毎月の定例記事として、前月に読んだ本の報告をし、なかでも印象に残った2~3点の感想記事を書いている。

 何度も言っているようで申し訳ないが、読書には波がある。どんどん読める月と、なかなかハカがいかない月がある。不調だった翌月は、反省心からか一生懸命読んでしまう。10月の読書が不調だっただけに、11月は頑張ろうと読書に精を出した。これが出来るのも、【読書記録】をきちんとつけているお陰だと思う。

 私の読む本はほとんど小説だが、それも乱読の部類だ。目についた本を手当たりしだいに読んでいる。ただそこは慎重で、ほとんどは以前に読んだお気に入りの作家のものだ。新しい作家には、ほとんど手を出していないね。だから、半面読む本が少なくなる。毎月、選書に四苦八苦している。

 11月も、読んだ本の一覧表を眺めてみると、ほとんどが馴染みの作家の本を読んでいることが分かる。結果は、16冊・5,204頁の読了だった。毎月最低5,000頁は読みたいと思っているが、まあ、11月はなんとかクリアした。それでは、具体的に何を読んだのか。

貫井徳郎『愚行録』 東京創元社 2006年3月刊

梁石日『Y氏の妄想録』 幻冬舎 2010年12月刊

夢枕獏『呼ぶ山 夢枕獏山岳短篇集』 メディアファクトリー 2012年4月刊

宮尾登美子『湿地帯』 新潮社 2007年8月刊

西木正明『水色の娼婦』 文藝春秋 2013年9月刊

東野圭吾『容疑者Xの献身』 文藝春秋 2005年8月刊

西木正明『極楽谷に死す』 講談社 2008年3月刊

柳美里『山手線内回り』 河出書房新社 2007年8月刊

山口瞳『父の晩年』 河出書房新社 2007年1月刊

夢枕獏『大江戸釣客伝(上)(下)』 講談社 2011年7月刊

村上由佳『天翔ける』 講談社 20132年3月刊

松本清張『神々の乱心(上)(下)』 文藝春秋 1997年1月刊

葉室麟『蜩の記』 祥伝社 2012年2月刊

C.W.ニコル『森をつくる』 講談社 2013年3月刊

2013_1109_112237pb090004_2  今月最初に紹介する本は、松本清張『神々の乱心(上)(下)』である。本書は、著者最晩年の作である。完結することなく、松本清張は亡くなったという未完の大作だ。

 私は、松本清張の熱心な読者というわけではない。それでも、『零の焦点』とか『砂の器』など主要作品は若いころに読んでいる。ただ、私は読み飛ばし読書なので、ミステリーは基本的に苦手だ。

 『神々の乱心』を読んで思ったのは、高橋和己の『邪宗門』である。私の大好きな小説だ。後者は、新興宗教『大本教』の大弾圧にヒントを得た作品だった。清張の作品も、新興宗教『月辰会』をめぐる話だった。ただ、戦前の権力の宗教弾圧から満州での経緯まで話が広がり過ぎて、一体最後にどのように締めくくるのだろうかと思った。残念ながら、そこは描き切れていなかった。それにしても、清張は重い。

2013_1109_112315pb090006  最近、気になって読む作家に夢枕獏がいる。今月は2点の作品を読んだが、そのうちの『大江戸釣客伝(上)(下)』について、ここで紹介したい。夢枕獏という作家について、私は最近読みはじめたばかりなので、まだよく分からないというのが正直なところである。ただ、『神々の山嶺』のような彼の山岳小説は良い。しかし、おどろおどろしい魑魅魍魎を描く作品は遠慮したい。

 今回の小説は、江戸時代の徳川綱吉の御代の話だ。綱吉の「生類憐みの令」がエスカレートして、犬だけではなくすべての生き物、例えば釣りで魚を獲るのも、商売以外はまかりならないということになった。綱吉の側小姓までやっていた主人公津軽采女は大の釣好きである。しかし、幕府の眼をはばかって、釣りは遠慮していた。しかし、悶々と釣りに対する思いが嵩じてくる。

 その時、家族も財産も何もかも捨てて釣りに没頭した「投竿翁」という謎の男の存在を知る。しかも、彼・なまこの新造の書いた『釣り書』の存在が分かった。調べてみると、その男には娘がいるようなのだ。話しは一種のミステリー仕立てだ。さらに、微妙に忠臣蔵の吉良上野介の話まで加わる。

 江戸風俗まで描かれていて、私には面白く読めた。ただ、残念ながら釣りに関しては門外漢だ。

2013_1109_112205pb090003  最後に取り上げるのが葉室麟『蜩の記』である。私は歴史小説が好きで、よく読む。そして、この小説は藤沢周平や山本周五郎の『樅の木は残った』を彷彿とさせる作品だった。

 舞台は豊後羽根(うね)藩。戸田秋谷は藩主の側室との不義密通の罪で、10年後の切腹を命じられる。10年間は、彼が手がけている「藩史」を仕上げる時間だ。その戸田見張りのために遣わされたのが壇野庄三郎である。壇野は戸田の仕事を手伝いながらも、彼を注意深く監視する。

 身近で彼の所作を見るにつけても、段々と戸田に信服していく。しかも、戸田は藩の権力抗争の中で貶められていったことが分かる。家老・中根に命じられて戸田のもとに赴いたが、むしろ戸田を守ろうという立場に変じた。ただ、戸田は仕事が終わり次第切腹する覚悟はできていた。

 この小説を読みながら、静謐さを感じた。淡々と進む筋に、安心して読めたことは確かだ。私は、山本周五郎の作品はほとんど読んでいるはずだ。若かったころの話なので、再度読んでみたいと思ったね。

 この小説は2011年10月に発表されて、直木賞を受賞した。2012年、NHK-FM放送でラジオドラマになり、来年2014年には映画化も決定された話題作でもある。面白く読めた。

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2013年11月11日 (月)

№2147 10月に読んだ本

 毎月の月初には、前月読んだ本の報告をし、なかでも印象に残った2~3点にコメントをつけている。ブログを検索してみると、この読書報告を始めたのが2008年9月からであるから、もう5年以上になる。飽きっぽいことで有名だった私だが、よく続くものだとわれながら感心する。

 いつも言い訳しているようだが、10月も北海道旅行があったり吟行があったりで、家に落ち着いている暇がなかった。そんな忙しい日常の中でも、たえず本を読むことは心がけている。ただ、若干悔いの残る10月の読書量だ。コンスタントにクリアしていた月5000頁だが、10月は、12冊・4775頁と例月よりも一冊少なかった。それでは何を読んだのか。

阿部和重『ピストルズ』講談社、2010年3月刊

帚木蓬生『聖灰の暗号(上)(下)』新潮社、2007年7月刊

黒川博行『落英』幻冬舎、2013年3月刊

辻井喬『風の生涯(上)(下)』新潮社、2000年10月刊

白川道『浮かぶ瀬もあれ シン・病葉流れて』幻冬舎、2013年1月刊

宮本輝『約束の冬(上)(下)』文藝春秋、2003年5月刊

連城三紀彦『秘花』東京新聞出版局、2000年9月刊

横山秀夫『看守眼』新潮社、2004年1月刊

C・W・ニコル『アファンの森の物語』アートデイズ、2013年5月刊

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 わたしの【読書記録】には、2500冊余りの本が載っている。多分、その95%以上の本は読んでいるはずである。ただ、最近以前に読んだ本を忘れて読むことがある。辻井喬『風の生涯』も読み終わってから気がついた。2010年6月4日号の記事(クリックすると、当該記事が読める)に、この本のコメントが載っている。まあ、面白い本は何度読んでもいいか。

 この小説は、水野成夫(1899-1972)の生涯を綴ったものである。読みながら思ったのだが、まさに水野の生涯は辻井喬(本名・堤清二)の生涯をなぞったような生き方をした。戦前、水野は共産党運動で検挙されている。堤は、戦後、共産党の闘士だった。

 この本を読んで、水野の生涯は昭和史とダって読める。ほとんどが仮名になっているが、この人は本名が誰となぞらえて読んでいく楽しみがあった。文学を志したが、戦後は心ならずも実業界に進出し、再生紙工場、フジテレビ、サンケイシンブンなどを一人立ちさせた骨太の人物の評伝は面白かった。

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 わたしは帚木蓬生の本はほとんど読んでいたはずなのだが、図書館の棚に本書を見つけ、アレまだ読んでいないなと早速借り出した。

 ちなみに、今まで読んだ帚木蓬生の本を検索してみた。『逃亡』、『臓器農場』、『薔薇窓』、『国銅』、『閉鎖病棟』、『三たびの海峡』、『賞の柩』、『安楽病棟』、『ヒトラーの防具』、『空山』、『アフリカの蹄』、『受精』、『アフリカの瞳』、『インターセックス』、『エンブリオ』、『千日紅の恋人』、『水神』、『蠅の帝国』、『蛍の航跡』、『日御子』等である。Wikipediaをみる限り、帚木蓬生の主要な本はほとんど読んでいる。

 とはいっても、『聖灰の暗号』は読み落していた。ヨーロッパ中世の話で、フランスのピレネー山脈の麓で広がっていたキリスト教異端の『カタリ派』へのヴァチカンの弾圧の話だった。中世のヨーロッパのキリスト教は、キリストの精神からますます離れて、華美になっていた。

 そのヴァチカンのキリスト教に反旗を翻したのがカタリ派だ。「原始キリスト教に戻ろう」という訴えは、ヴァチカンにとってはゆるがせに出来ない運動だった。武力で根こそぎ排除してしまおうと、フランス皇帝の武力で弾圧した。

 その弾圧の記録はすべて抹殺され、闇の中に葬られていた。日本人研究者の須貝彰は、フランスの地方の図書館で、地図コーナーに挟まれているその記録を発見した。学会でその発見を発表した須貝に、巨大な権力の影が迫ってくる。ヨーロッパの中世史とミステリーが重なった、読みごたえのある一冊だった。2013_1024_155446pa240004 最後に紹介するのが、連城三紀彦の『秘花』である。わたしは連城の本を読むのは初めてである。意識はしていなかったのだが、連城の本を読みはじめてすぐに、彼の死去が報道された。これも何かの縁だな、と強く思った。

 恋愛小説でもないよね、何か不思議な話だった。中学生の娘が妊娠した。それを隠そうかというふうに、お母さんには父の浮気を、その父親には母の不倫を告げる娘。その発端は、祖母の綴った彼女の生涯のノートだった。そして、小説の主題はむしろ祖母の生涯にまつわることだった。

 死ぬまで隠し通していたのだが、祖母は名古屋・中村で春を売る遊女だった。中村遊郭での話が新鮮だった。なぜこの小説を書くにいたったのか不思議だったが、連城三紀彦は名古屋の中村周辺で生まれたのだ。

 戦前・戦後の遊郭の独特な雰囲気がよくあらわれていて、面白く読めた。

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2013年10月 5日 (土)

№2110 九月に読んだ本

 八月は不作だった読書量に少々焦りを覚え、九月は一生懸命読もうと思っていた。一年を通してみると、読書が進む月と進まない月があるように、一ヶ月を通してみても同じようなことがいえる。上旬、中旬、下旬として考えると、上旬に読書が進むと、下旬にはだれてしまう傾向にある。

 さらに、難解な本にあたるとその傾向が倍加する。9月はその傾向が如実に出た月だったね。まあ、それでも15冊・5416頁の読了数があったので、合格点はつけられる。それにしても、九月は面白い本が多かった。Aランクをつけた本は、15冊のウチ13冊だった。それでは何を読んだのかを列記し、その中の2~3点にコメントをつけたい。

宮本輝『優駿(下)』、新潮文庫、1989年11月刊

植松三十里『北の五稜星』、角川書店、2011年12月刊

乃南アサ『ニサッタ、ニサッタ』、講談社、2009年10月刊

山崎厚子『秋瑾、火焔の女』、河出書房新社、2007年12月刊

梁石日『大いなる時を求めて』、幻冬舎、2012年2月刊

梁逸『獅子頭(シーズトォ)』、朝日新聞出版、2011年10月刊

市川拓司『いま、会いにいきます』、小学館、2003年3月刊

高杉良『破戒者たち 小説・新銀行崩壊』、講談社、2012年3月刊

折原一『潜伏者』、文藝春秋、2012年12月刊

池澤夏樹『双頭の船』、新潮社、2013年2月刊

有川浩『図書館革命』、メディアワークス、2007年11月刊

野沢尚『リミット』、講談社、1998年6月刊

城山三郎『もう、きみには頼まない』、毎日新聞社、1995年1月刊

荻原浩『四度目の氷河期』、新潮社、2006年9月刊

植松三十里『唐人さんがやってくる』、中央公論新社、2013年7月刊

2013_0920_111254p9200006 最初に紹介したい本が、城山三郎の『もう、きみには頼まない』という古い本だ。神戸・淡路大震災の月に発売されている。本というのはどんなに古くっても、出会った時が新刊だと承知している。この本は、元経団連会長の石坂泰三の話だ。

 私は、若いころに城山三郎の本をたくさん読んだつもりでいた。Wikipedliaで彼の略歴を見てみると、そんなにも読んでいないことが分かった。それでも彼の代表作、『官僚たちの夏』『毎日が日曜日』『落日燃ゆ』などは読んだはずだ。残念ながら、内容は覚えていない。

Photo なぜこの本かというに、石坂泰三の話を読むうちに、果たして、自分の生涯のウチに【真に尊敬できる人物に、何人出会ったのか】を考えてしまったからである。ウ~~ム誰だろうと考えているうちに、そうだ安江良介という人物がいたな、と思いあたった。彼は、当時私が所属する会社の社長だ。

 いろいろ当時を思い出していたら、偶然なのだろうが、親友のマッキィからメールがあり、「いま、安江良介さんの本を読んでいるよ」というのだ。思わず彼と一夕をともにして、安江良介の思い出話にふけってしまった。マッキィは、安江さんの同郷・金沢の出身でもある。私にとっては未だ生々しい話しなので、ここでは詳しいことは避ける。いつか、話せるときが来るであろうか。

安江さんは、亡くなって15年になる。本当に早いものだ。

2013_0830_132513p8300010 梁石日『大いなる時を求めて』は、梁さんの一番のテーマ本だ。彼は在日朝鮮人だが、彼の両親は戦後のどさくさに紛れて済州島(チェジュトウ)から日本に逃れてきた人だ。彼の本を読むと、戦後日本のいかがわしさが照射されるから不思議だ。私の大好きな作家の一人でもある。

 主人公の実家は北朝鮮の清津だったが、朝鮮戦争のさなか、難を逃れて一家で済州島に移住したらしい。ただ、若い主人公にとっては、南朝鮮の不正は許せない。解放闘争に挺身するうちに警察に目をつけられた。捕まったら殺されると、命からがら日本に密航してきたのだ。

 大阪の馬飼野で生まれた梁石日にとって、周囲は小説の題材に満ちていたことだろう。彼の父親のことを書いた『血と骨』は、本当に迫力のある小説だった。

2013_0830_132525p8300011 山崎厚子『秋瑾、火焔の女』を読んで、中国の紹興を思った。何年前のことだろうか、仲間で上海を旅したときに、4人のグループは仲間と別れ、寧波・紹興を旅してきた。寧波(ニンポー)は、遣唐使船が着いた港町として有名だ。ただ、その港に行くには車で一昼夜かかるとのことで、諦めた記憶がある。

 紹興は素敵な街だった。街のあちこちに小川が流れ、本当にきれいだった。そして、この町は、魯迅や周恩来の生まれた町でもある。【魯迅故居】と【周恩来故居】に寄ったついでに、すぐ近くにある【秋瑾記念館】にも立ち寄った記憶が新しい。

 秋瑾は、武田泰淳『秋風秋雨、人を愁殺する 秋瑾女子伝』という小説で知っている程度だった。いま検索して見ると、武田泰淳のこの本は1968年に発売されたというから、私が学生時代のことだ。学生運動のさなか読んだものだろう。

 あらためて、懐かしさに本書を手に取った。秋瑾は、旧中国から新中国に代わる激動の時代を生きた女性だ。自宅は裕福で馬に乗って野を駆けるような家に生まれたが、没落した。両親が新興貴族を探してきて嫁になった。秋瑾は、その境遇に満足しているような人ではなかった。

 旦那の反対を押し切り、日本に留学した。そこで出会ったのは、中国の現状に飽き足らず、清国を倒して新しい中国を作ろうという若者たちであった。そして、いずれ清国を倒そうという革命の意思を持つようになった。日本から上海に帰り、革命を目指し小集団の中で活躍していたのだが、あえなく悲劇的な最後をたどる。

 再度中国を旅して見たい、と強烈に思った。紹興で買ってきた【紹興酒】も美味しかったな。

【10月4日の歩行記録】11,635歩

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2013年9月 6日 (金)

№2080 八月に読んだ本

 毎月の月初めには、前月読んだ本の紹介をし、印象に残った本2~3冊の紹介をしている。

 このところ毎月コンスタントに読めていた本も、8月は一段落した格好だ。原因は何かと考えると、暑くって本を読むどころではなかった。さらに田舎に帰ったり、那須滞在が長かったりと身辺があわただしかった。いや、一番の原因は、面白い本に出会えなかったことだろう。

 8月に読んだ本は、11冊・4168頁と低調だ。最近は、毎月13冊・5,000頁以上の読書量をこなしていた。この2~3年の傾向をみて見ると、一年に1~2回はどうしてもこういう月がでて来る。2011年の9月は3,230頁だったし、2012年の5月は4,207頁だった。

 それでは、8月は何を読んだのか。例月のように一覧を紹介する。

熊谷達也『調律師』、文藝春秋、2013年5月刊

辻仁成『ピアニシモ・ピアニシモ』、文藝春秋、2007年4月刊

佐々木譲『北帰行』、角川書店、2010年1月刊

篠田節子『廃院のミカエル』、集英社、2010年11月刊

植松三十里『群青 日本海軍の礎を築いた男』、文藝春秋、2008年5月刊

津島佑子『葦舟、飛んだ』、毎日新聞社、2011年1月刊

江波戸哲夫『ジャパン・プライド』、講談社、2009年9月刊

荻原浩『ひまわり事件』、文藝春秋、2009年11月刊

折原一『追悼者』、文藝春秋、2012年6月刊

山口果林『安部公房とわたし』、講談社、2013年8月刊

宮本輝『優駿』、新潮文庫、1989年11月刊

 いつ本を読み終わったのかを調べてみたら、『廃院のミカエル』を読み終わるのに1週間もかかってしまった。普通2~3日で一冊を読み終えるのに、この本が今月のネックだったのかな。

2013_0830_092603p8300004 宮本輝の本は、そのストーリーの面白さも相俟って、どんなに長編でもあっという間に読み終わってしまう。読了の進行が遅い時には、助かる作家だ。最近、女房と秋田の姉、横浜の姉が競うように宮本輝を読んでいるようだ。私は、20年ほど前にほぼ全てを読んでいるので、今さらという気持ちが強い。ただ、内容を覚えているかと問われると心もとない。

 『優駿』も本棚で偶然に見つけて読んだのだが、まるで初めて読んだような印象だ。多分、20年以上前にすでに読んでいるのだろう。それにしても、宮本輝はストーリーテリングの上手な作家だね。読みはじめたら止まらない。

 この小説はいわば競馬小説で、トカイファームという北海道の小さな牧場で誕生した“オラシオン”というサラブレッドを取り巻く人々の物語である。それにしても、競馬馬は血統の大切な動物で、まるで血統が走っているようなものだと思った。もう一度、宮本輝を読んでみようかな。

2013_0728_145243p7280003 最近、月に一二冊読んでいるのが折原一だ。今月読んだのは、『追悼者』である。折原の小説は、ある大きな事件を題材に、自分の物語を構築していくのが特徴だ。『追悼者』は、東電OL殺人事件を題材に、作られた小説のようだ。

 この小説は「丸の内OL殺人事件」として、浅草の路地裏の古いアパートで殺された若い女性の話だった。大河内奈美という丸の内の大手旅行代理店に勤める女性で、夜は浅草のタバコ屋の前に立って、男を誘っていた。二重生活を送っていた被害者を、マスコミは扇情的に報じた。

 この話を本にしようとする何人ものルポライターが動いた。主人公笹尾時彦もその一人だ。笹尾は彼女の生い立ちを取材するに従って、自分もこの事件に巻き込まれていく。小説の中に「幕間」という章が挿入され、事件のヒントを与えてくれたのも、従来の折原の手法と同じだ。

2013_0830_092543p8300003 最後に紹介したいのが、山口果林『安部公房とわたし』だ。私は芸能本を読むことはほとんどないし、芸能のゴシップにも関心は薄い。女房が、「なぜこの本を買ったの」と聞いてきた。実は、いつもコメントに登場するアルぺル山ちゃんが、「図々しいですが、兄弟仁義により書かせて頂きます。六歳上の姉の著書が、講談社から発売されました。『安部公房とわたし』。自分史を書くとは聞いていましたが、私の知らない事実も多く、ビックリ。伯父についても触れてあり、貴殿の前勤め先や、Kumiko嬢も登場します。お眼をとうして下されば幸いです。」というコメントを寄せてくれた。そういわれたら、読まないわけにいかないね。

 私は比較的安部公房の本を読んでいたつもりだが、亡くなって20年余り、ほとんど内容を忘れてしまった。小説の陰に山口果林さんがいたなどとは知らなかったね。それにしても一種の告白本でもあるが、セツナイネ。ここまで自分をさらけださなければならないのだろうか。人は生きていくうえで、あの世まで持っていかなければならない話がたくさんあるものだ。

 安部公房死亡後20年、矢張り言わないではいられない内発的なものがあったのだろうね。安部公房との幸せな年月、安部家との葛藤、安部公房の小説の話等安部公房ファンにはこたえられない話が満載されてはいた。

 この本で一番心を打ったのは、公房死後、彼女がマスコミを避けるためにどれだけ苦労したかということだった。自宅に籠るだけでなく、海外にまで逃げていかなければならなかったのは、同情に余りある話だった。

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2013年8月31日 (土)

№2074 良い図書館のある街に住みたい

2013_0830_081505p8300001 私は、月に必ず一~二度は市の図書館に通っている。そして、前に借りた本を返却し、次に新しい本を借り入れている。最近では、大体一回に9冊を借りることにしている。借入期間が二週間だからである。

 まあ、9冊を二週間で読み終わることはほとんどないから、自動延長で借りることになる。それでも、面白い本がたくさんある時はハカが行くのだが、今回借りた本は失敗だった。8月11日が返却日だったのだが、返却したのがなんと8月30日である。まあ、図書館はほとんど何も言ってきはしないのだが、心が痛む。

2013_0830_142821p8300015 それでも懲りずに、また9冊借りてきた。今回は面白そうな本がたくさん見つかったので、図書館にあまり迷惑をかけることはないだろう。

 借りてきた本は写真を撮り、私の【読書ノート】に記録をとっておく。このノートはExcelで管理をしていて、書名欄がダブっている時には浮き出てくる。またダブって借りたのだな、とわかるのである。

 そういえば、先日ラジオを聞いていたら、九州のある市が、図書館の運営を私企業である第三者機関に委託した、という話が紹介されていた。その結果、年中無休になり、開館時間も夜9時までと延長され、閉架図書も全部開架され、おまけに図書館の中に有料の喫茶店まで開設されたようである。すべてが良いことずくめだ。

 私のような継続で図書館を利用するものにとって、何より困るのは定期閉館である。公務員が運営しているからやむを得ないのだが、毎週火曜日が休館日である。それに、やれ棚卸だ、何かの行事があるといっては閉館になる。図書館に行って、たまたま閉館になっているとイライラしてしまう。しかも時間は午後5時までである。これからという時に追い出されるのも癪の種だ。

 図書館は公共機関ではあるが、何も公務員でなければ運営出来ないことはないのじゃないか、と常々思っている。まして超高齢化社会だ。今後とも図書館の果たす役割は大きい。もっともっと市民サーヴィスに徹した運営をお願いしたいものだ。

 何かの機会があったら、市に要望書を出してみよう。そういえば、この日図書館に行ったら『図書館は街中の避暑地です』という看板がかかっていた。

 それにしても、蔵書がたくさんあり、静かな読書空間が確保され、いつ行っても開いている図書館のある街に住みたいね。

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2013年8月 8日 (木)

№2051 7月に読んだ本

 毎月の月始めには前月読んだ本を報告し、そのなかでも印象に残った数冊にコメントを付けている。

 読書は、私の趣味を通り越して生活の一部になりきっている。友だちに「趣味は何ですか」と聞かれても、ゴルフとか畑仕事とは言っても、私は決して読書とはいわない。息を吸い、食事をすることとまったく同じこととして捉えている。

 今年も7カ月が過ぎた。今年の月平均を見てみると、13.3冊・5200頁の本を読んでいる。7月もこの平均と同じように、13冊・5305頁の本を読んだ。ただ、本を読むことに慣れてしまったせいか、漫然と読み飛ばしていることが多いような気がする。ブックリストを見ても、印象に残ることが少なくなっている。これではいけないな。

 それでは7月はどんな本を読んだのか、紹介したい。

新田次郎 藤原正彦『孤愁SAUDADE』文藝春秋 2012年11月刊

丸谷才一『輝く日の宮』講談社 2003年6月刊

水上勉『故郷』集英社 1997年6月刊

篠田節子『銀婚式』毎日新聞社 2012年11月刊

大澤在昌『魔物(上)(下)』角川書店 2007年11月刊

辻仁成『永遠者』文藝春秋 2012年10月刊

折原一『逃亡者』文藝春秋 2009年8月刊

村山由佳『花酔い』文藝春秋 2012年2月刊

辻原登『冬の旅』集英社 2013年1月刊

花村満月『ウェストサイドソウル』講談社 2010年10月刊

小池真理子『Kiss』新潮文庫 2013年6月刊

百田尚樹『影法師』講談社文庫 2012年6月刊

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  本書『孤愁』は異色な本だった。今ごろ、なぜ新田次郎の本が図書館の棚にあるのだろうか、と不思議に思った。藤原正彦は新田次郎の子どもだとは知っていたが、彼は数学者だ。著者名に一緒に並ぶ不思議さで手に取った。

 『孤愁』は、新田次郎の1980年に亡くなる時の絶筆本だ。新田の無念さを引き継いだのが、次男の藤原正彦だ。ただ、とはいっても巧妙な文学者の筆をそのまま引き継いで書く困難さを、この小説で読んだ。父の文章を完結させるのに、藤原は何と30有余年かかっている。とはいっても、新田の文章を読んだものにとって、藤原の文章にはしばらく違和感が拭えなかった。

 まあ、別物として読んでみると物語は完結するのだが、近代日本には日本の近代化に貢献した陰の外国人が多かったことに驚く。主人公ヴィエンセスラウ・デ・モラエスもその一人だった。ポルトガル人のモラエスは、日本とポルトガルに架け橋を作るために苦闘した人だ。670頁にわたる大作だったが、夢中になって読んだ一冊だ。

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 水上勉さんの本も大半読んでいる。彼の代表作『飢餓海峡』や『金閣寺』、『五番町夕霧楼』等ににドップリ嵌っている時代もあった。私の好きな作家のうちの一人だ。どうしても、水上の話は故郷北陸が舞台になることが多い。

 アメリカから母を訪ねて若狭の冬の浦にやってきた日本語の全然わからないキャッシー。冬の浦では、英語を解する人はほとんどいなかった。それでも、意は通づるではないが、だんだん人の輪が広がっていく。そこにキャッシーと飛行機で一緒になった富美子の話が織りなされていく。

 さらに、この小説の新しさは、北陸の原発銀座の問題だ。原発のもたらす経済的な問題にがんじがらめになっている地元住民、多々、故郷を離れた住民にとってはすっかり変わった田舎に戸惑う姿がくっきりと描かれている。喪われつつある日本の原風景を描く好古の一冊だった。

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 辻原登は、最近の私の大好きな作家の一人だ。彼の小説は手に入る限り読んでいる。そして、『冬の旅』は辻原の最新作でもある。さっそく読んだ。

 主人公の緒方隆雄は滋賀刑務所を満期出所した。懐にあるのは、刑務所内で働いたわずかばかりの金だ。出所しても行くあてのない緒方は、大阪のドヤ街を棲み家にした。遊郭や競艇に費やし、懐の金はすぐになくなった。

 彼がこのような形で身をやつした原因、そして刑務所で出会った久島常次の境遇もこの小説に織りなされていく。行き場のなくなった緒方が、和歌山の片田舎で起こす事件等どうにもやりきれない話だった。ある人は傑作というが、そうだったのだろうか。

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 このところ、月に1冊は百田の本を読んでいる。探してみると、意外に多作なのには驚く。私はあまり百田を知らないというか、この小説が時代小説だった、しかも彼がこのような小説を書くことに軽い驚きを覚えた。

 ある意味で、主人公戸田勘一の成長小説だ。下士の家に生まれた少年勘一は、あるとき眼の前で父が上士に殺された。家禄は20石とわずかだったのが、父の死とともに10石と半分に減らされた。塗炭の貧乏の中で、母の頑張りで何とか食いつなぐ生活だった。

 厳しい身分社会にも、少しずつ風穴があいてきている。勘一は藩校に合格し、剣の道でも上覧試合で藩主の眼を引く。貧乏藩は、藩士の年棒を減らすことによってかろうじて生き延びていく。ただ、勘一には藩の財政を根本的に立て直すべき秘策を持っていた。その策が藩主に受け入れられ、勘一は国家老まで上り詰めたという、いわば出世物語だ。

 こういう小説も、私は嫌いではないね。

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2013年7月 7日 (日)

№2019 6月に読んだ本

 今年も、もう半年が過ぎた。わが読書生活は順調に推移している。この半年を顧みると、平均毎月5,000頁以上、約13冊の本を読んでいる。ほとんどぶれがないのが良いね。

 6月も、12冊5,126頁の本を読了した。しかし内容をみると、2段組みの厚い本や長編の面白くない本もあって、なかなか苦しいものだった。本を読むという行為は、忍耐のいる作業とつくづく感じている。

 さて、このところ読んだ本を列記しているが今月も書いてみたい。

『煤煙』北方謙三、講談社文庫、2006年7月刊

『擬態』北方謙三、文春文庫、2004年11月刊

『黄色い蜃気楼』船戸与一、双葉文庫

『単独行者 新加藤文太郎伝』山と渓谷社、2010年9月

『モンスター』百田尚樹、幻冬舎文庫

『ゆで卵』辺見庸、角川書店、1995年12月

『調印の階段』植松三十里、PHP研究所、2012年8月刊

『太陽を曳く馬(上)(下)』高村薫、新潮社、2009年7月刊

『懐郷』熊谷達也、新潮社、2005年9月刊

『雨月の人』篠田達明、海越出版社、1992年4月刊

『白い瓶』藤沢周平、文藝春秋、1985年11月刊

 残念ながら、6月は印象に残る面白い本が少なかった。私は読んだ本の感想をABCランクにしている。ほとんどの月は圧倒的にAランクが多いのだが、この月はAランクが7冊、Bランクが3冊、Cランクが2冊だった。

2013_0516_153311p5160009 なかでも印象に残ったのが、谷甲州『単独行者 新・加藤文太郎伝』だ。テーマは面白かったのだが、何しろ505頁二段組みの本は読み終わるのに苦労した。1週間ほどかかったか。

 加藤文太郎は、大正から昭和に初めにかけて、単独で北アルプスを次々と踏破したことで有名な登山家である。残念ながら、昭和11年、北アルプス槍ヶ岳の下北鎌尾根で遭難し、帰らぬ人となった。私が学生時代、彼の著した『単独行』や、新田次郎『孤高の人』等でなじみの人だった。あらためて、谷甲州で加藤文太郎を読んだ。

 従来、加藤文太郎の遭難は初心者のパートナーの力量不足が原因といわれていたが、一緒にパーティを組んだ相手も充分に力量のある登山家だった。『孤高の人』はあくまでも創作だった。読み終わった充実感に満足した。

2013_0613_150115p6130005 基本的に、私は歴史小説が大好きだ。その時代も、古代から近代まで何でもOKだ。最近、好んで植松三十里(みどり)の本を読んでいる。彼女は、江戸から明治、近代にかけて忘れられた人の発掘に力を注ぐ。『千の命』、『辛夷開花』など良い小説だった。

 今回の小説は、日本史上もっとも不名誉な仕事を買って出た男―降伏文書への調印を行い、戦犯になったことで低い評価を受けている昭和の外交官・重光葵を描いた小説だった。

 重光葵は、忘れられた外交官かもしれないが、この本を読む限り、リベラルで英国との関係強化に力を注いでいた。上海滞在中にテロに遭い、片足を負傷し、一生足を引きずって歩く外交官で有名だった。松岡洋祐がドイツとの三国同盟に肩入れしたのを危惧していた。私もこの小説を読んで、あらためて重光を知ったのだが、忘れてはいけない人の一人だと強く思った。

 今月読んでがっかりしたのが、高村薫『太陽を曳く馬』だ。私は、高村が好きでよく読んでいた。特に、彼女の処女作『マークスの山』は今でも傑作だと思う。それが、だんだんつまらない小説に堕してきた。今回の小説は、オーム真理教を題材に取ったのだろうが、最初から最後まで宗教論に終始した。我慢して読んだのだが、しばらくは高村はもういいね。

 北方・船戸の小説は、海外旅行で飛行機に乗った時に読もうと思って買ったものだ。面白かったのだが、ここでコメントするような話でもなかった。

【7月6日の歩行記録】

8,633歩、6㎞、1時間6分、345.7カロリー

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2013年6月 8日 (土)

№1990 5月に読んだ本

 毎月の月初めには、前月読んだ本を振り返り、印象に残った本3~4冊について、若干の感想を述べている。実は、この記事が私にとってはとても大事で、毎月の読書の推進力ともなっている。

 私は、買ってきた本や図書館で借りてきた本は、ほぼ100%近く読んでいる。たとえどんなに面白くなくても、最後まで読むようにしている。一種の訓練のようなものだ。ただ、長編でダラダラ書いている本は、詠み終えるのは本当に苦痛だ。月に1~2冊、そんな本にブチ当たる。今月も2冊ほどそういう本があった。どの本とはいわないが、自分の選書眼を疑うことになる。

 ただ、今年になって、読書はコンスタントに進んでいる。この5月まで月平均14冊、5,000頁以上の読書というところだ。この5月も14冊、5,091頁を読んだ。以下、5月に読んだ本のリストだ。

『私物国家 日本の黒幕の系図』広瀬隆、光文社、1997年10月刊

『明日の風』梁石日、光文社、2010年8月刊

『薔薇密室』皆川博子、講談社、2004年9月刊

『生きいそぎ』志水辰夫、集英社、2003年2月刊

『千の命』植松三十里、講談社、2006年6月刊

『和解せず』藤田宜永、光文社、2012年4月刊

『永遠のゼロ0』百田尚樹、講談社文庫、2009年7月

『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン、新潮社、1996年7月刊

『自然を読み解く山歩き』小泉武栄、JTBパブリッシング、2007年4月刊

『転身 瀬島龍三の「遺言」』新井喜美夫、講談社、2008年8月刊

『夜に目醒めよ』梁石日、毎日新聞社、2008年3月刊

『ブログ進化論』岡部敬史、講談社α新書、2006年4月刊

『祈る時はいつもひとり(上)(下)』白川道、幻冬舎、2010年7月刊

2013_0516_153121p5160002  5月に読んだ中で、何といっても最高に面白かったのは百田尚樹『永遠のゼロ0』という小説だった。前月同作家の『海賊とよばれた男』を読み、百田の本を続けて読んでみようと思い立った。「本屋大賞受賞」以降、俄然注目を浴びている作家である。先日、秋田に帰郷した折に、秋田の姉が「『永遠のゼロ』は良かった」としきりに褒めていた本だ。

 姉がそんなに褒めるならと、手に取った。なんと200万部も売れた文庫というではないか。一体どういう小説なのだろうか。

 まあ、簡単に言ってしまえば、零戦のパイロットであった祖父のルーツを探すために、主人公宮部健太郎が姉とともに、祖父を知っている戦争体験者を尋ね回る旅の話だった。尋ね歩くうち、戦争とは何だったのか、零戦とはどういう飛行機だったのか、祖父はどういう人柄だったのかがだんだん浮かび上がってくる、一種のミステリー仕立ての話だ。

 当初、祖父の宮部久蔵は「海軍航空隊一の憶病者」という評判だった。だんだん話を聞いているうちに、祖父は「決してこの戦争では死にたくない」と強く思っている人だったようだ。新婚だった奥さんを残して死にたくなかったようだ。そして分かってきたのは、祖父は海軍切っての名パイロットだったのだ。死にたくなかった、海軍切ってのパイロットが、なぜカミカゼ特攻を志願していったのか。この小説で、祖父のそこに至った心象がよく分かってきた。

 特に感銘を受けたのは、「カミカゼ特攻」で飛び立った学徒動員の学生の話だ。あたら、若く前途のある学徒の命を、無駄に散らせて平然としている軍の上層部を告発した書にもなっている。「自分も後を追いかける」と送りだした上層兵の無責任さに腹が立った。久々に感銘を受けた小説だった。

 この小説を200万人もの方が読んでいるなんて、まだまだ日本は捨てたものではないね。まだ読んでいない方には、ぜひお勧めしたい一冊だ。

2013_0516_153225p5160006  前にも書いたが、私が買った本、借りた本はほとんど読む主義だ。ただ、本書・新井喜美夫『転身 瀬島龍三の「遺言」』は、買って3年くらい本棚に収まったままだった。たまたま読む本がなくて手に取ったのだが、意外と面白く読めた。

 この本を買った理由は、一体、瀬島龍三という人はどういう人物か、興味を持ったからである。私のイメージでは、コチコチの右翼で、しかも戦争を引き起こした責任者の一人という感じだった。この本を読んで、当たっている面もあったが、大部分は大きく違っていた。

 瀬島は、敗戦直前に軍の命令で満州の前線にいた。それが敗戦で、シベリア抑留に合い、10数年もシベリアにいたという。著者は、口が堅かった瀬島から、断片的に戦争の話を聞いていた。

 いろいろ驚くような事実が話されたという。特に、陸軍と海軍は犬猿の仲で、お互いに情報を共有することなどなかったようだ。時の総理大臣東条英機が、ミッドウェーでの大敗戦を敗戦間近まで知らなかったというのだ。そんな馬鹿なとは思うが、どうも事実のようだ。

 戦争の裏話として、軍の大将クラスは大変な収入があったにもかかわらず一銭の税金も払わなかったとか、自分の手柄のために天皇の前でも平気で嘘を吐くとか、ある元帥が爵位を欲しいために日中戦争を拡大していったとか、よく戦争が遂行できたものだったな、といった事実が次々と明らかになっていった。思わず、収穫の多かった読書だ。

2013_0516_153326p5160010  最後に、感銘を受けた本をもう1冊紹介したい。白川道『祈る時はいつもひとり(上)(下)』だ。私は白川の小説が好きで、目につく限りよく手に取っている。彼は、一橋大学を卒業して、投資家として株の世界に身を投じ、その後作家として独立したようだが、サラリーマンというより、むしろ無頼作家という印象が強い。

 サラリーマン時代は、ほとんど会社に行かず、女の家から麻雀屋に入り浸りだったようだ。しかも、麻雀で一度賭けるお金は高額で、とてもサラリーマン麻雀とは思えない。その近辺の事情は、彼の作「病葉流れて」に詳しい。

 今回の作は、返還前後の香港を舞台にして、仕手株で名を馳せた3人組の話だ。一人尾形は不審な事故死、もう一人瀬口はやくざの巨額な投資金を持って失踪、もう一人の主人公茂木も、被害者の一人という仕立てだ。茂木は、やくざに追いたてられて、瀬口探しに没頭したいたのだが、一向にその足取りがつかめない。

 諦めていた尾形没後5年たって、事件(「風」)は動き始めた。これまで付き合いのあったやくざだけでなく、政治を陰で操る黒幕、香港返還を機に触手を伸ばそうとする中国の黒組織、そこに現れる瀬口の妹と、事件は大きく展開しはじめる。最後の結末にもギョッとした。エンターテインメント小説である。

【6月7日の歩行記録】

8,357歩、5.85㎞、56分、334.8カロリー

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2013年5月10日 (金)

№1961 4月にはどんな本を読んだか

 毎月一度、月の初めに、前月読んだ本を報告し、その中で印象に残った本3~4冊を紹介している。【読書日誌】を振りかえると、この報告を始めたのが2008年7月からだから、もう4年半にもなる。

 この記事を毎月書き続けるのは、自分にとって結構負担になってはいるが、一方では、この記事を書いているので読書に拍車がかかるという面があるのは否めない。そもそも、ブログは一般の方に向けた個人日記だが、反面、いろいろの投稿記事が随分自分自身への励みになっていることも多い。この定例記事もまさにそうだ。

 4月は、話題書を中心に読んだ。村上春樹、百田尚樹、宮本輝等だ。高い目標として、一日200頁、一ヶ月6,000頁読もつもりでいるが、なかなか目標達成とまではいっていない。最近の傾向では、一ヶ月5,000頁がいいところである。4月は、14冊・5,133頁の本を読了した。先月から読んだ本の公開をしているが、今月も何を読んだのかリストを示したい。

『粋人粋筆探訪』坂崎重盛、芸術新聞社、2013年4月刊

『藩校早春賦』宮本昌孝、集英社、1999年7月刊 

『遥かなる水の音』村山由佳、集英社、2009年11月刊

『バイバイ・フォギーディ』熊谷達也、講談社、2012年4月刊

『二重生活』小池真理子、角川書店、2012年6月刊

『冬の旅人』皆川博子、講談社、2002年4月刊

『なずな』堀江敏幸、集英社、2011年5月刊

『骸骨ビルの庭(上)(下)』宮本輝、講談社、2009年6月

『おどろきの中国』橋爪大三郎他、講談社、2013年2月刊

『海賊とよばれた男(上)(下)』百田尚樹、講談社、2012年7月刊

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹、文藝春秋、2013年4月刊

『星々の舟』村山由佳、文藝春秋、2003年3月

2013_0412_163034p4120010 今月最初に取り上げたい本が、矢張り、村上春樹の最新刊『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』である。4月発売早々百万部を突破したというニュースがあったが、その後追加ニュースが出ていないが、果たして売れているのだろうか。

 村上春樹が、京都で講演をし、500人の前で話したことがニュースになっていた。何でも十数年ぶりに、日本人の前で話すのだそうだ。「自分は普通人だから、あまり人の前に立って目立つような行動はしたくない」というのが、講演などをしない主な理由なのだそうだ。そのスタンスが良いね。

 この小説はベラボーに面白かったというわけではないが、それでも村上らしさがあって、肌に吸いつくようにさっと読めた。血沸き肉躍る小説も良いが、こうやってさらっと読める小説もなかなか良い。

 主人公多崎つくるには、とっても大事な4人の友だちがいた。高校時代は、その友だちとはほとんどいつも一緒だったのだが、大学は彼が東京、他に4人は地元愛知の大学に進学した。それでも、大学の休みには地元に帰り、仲間とつるんでいたが、ある時から、一斉に4人と連絡が取れなくなった。一体何があったのか、彼には身に覚えがなかった。どうしてもその理由を知りたく、無理にその中の一人を訪ねたら、絶交宣言を言い渡されたのだ。

 つくるは東京に帰っても、一体何が原因だったのかわからず、落ち込んで自殺まで考えた。最悪の時を乗り越えたが、その後愛知の自宅にはめったに帰らなくなった。30歳代半ば、付き合っていた女性にそのことを話したら、「自分でつきとめるべきよ。原因が分かったら、結婚しても良い」というので、あらためて友を訪ねてその原因を探る、という話だった。

 京都での講演会で、村上は「作品に出場した人たちに自ら語らせたら、思わず長編小説になった。自分は小説を書くのに、決して手抜きはしない」と語ったようだが、それが良いね。

2013_0412_112547p4120009 もう一冊の話題小説で面白かったのが、百田尚樹『海賊とよばれた男(上)(下)』だ。この小説は、2013年度本屋大賞に選ばれ、売れに売れているようだ。以前は、芥川賞や直木賞を受賞した本が売れていたが、最近はさっぱりだ。代わって売れるのが、この本屋大賞受賞作だ。

 私は、百田尚樹の本を読むのは初めてだ。最近、『永遠の0零』や『モンスター』で名を馳せた売れっ子になっているようだ。私は、決してベストセラーを追わないが、これだけ話題になっているのなら読んでみよう。さらに、テーマが出光興産の創業者出光佐三だというから面白そうだ。

 上・下本だったが、その面白さに二日間ほどであっという間に読んでしまった。小説の初めの第一章【朱夏】は、戦争が終わった昭和20年から始まる。苦しい戦争時代をかろうじて乗り切ってきた国岡鐡造のもとに、外地で苦労しながら商売をしていた社員が続々と帰って来た。戦後まもなくでほとんど仕事もなかったが、鐡造は「一人の社員の馘首もままならん!」と号令を発した。

 社員全員で仕事探しを始めた。ある時はラジオの真空管修理をやり、また、ある時は石油タンクの清掃をやりながら糊口をしのいだ。いろいろな仕事をやるにつけても、矢張り自分の本業は石油販売業だと強く思った。ただ、石油販売には大きな壁が立ちふさがっていた。

 一つはGHQであり、もう一つはセブンシスターズといわれた世界の石油カルテルだ。セブンシスターズの傘下に入ると、どんなに楽に仕事が出来ただろうか。当時のナンバーワンの日石が早々にCALTEXの傘下に入った。ただ、鐡造はあくまでも民族資本にこだわった。

 セブンシスタ-ズの様々な妨害にもかかわらず、自ら巨大タンカーを造り、新たな輸入先を探しまわった。その動きに、世界資本は苦い思いをし、何度も倒産画策をしたのだが、簡単に潰れるものではない。何といっても、社員を大切にしていたのが、戦力となった。

 経済小説としても、大変面白かった。

2013_0329_140324p3290003 この月に苦労したのが皆川博子『冬の旅人』である。私は、皆川博子の本を読むのは初めてだ。しかも、この小説は526頁もあるうえに2段組みの本だった。さらに、題材をロシア革命に取った話で、人名を覚えるのに一苦労した。結果、読了するのに一週間もかかってしまった。

 文体も決して読み易いとはいえなかった。途中で何度も投げ出そうかと思ったが、一度読みはじめたら最後まで、というのが自分の哲学だ。何とかかとか読み通したというのが正直なところだ。

 主人公川江環(通称タマーラ)は、1880年(明治13年)、17歳の若い身空で単身露西亜に渡った。西洋画を学びたいという念願が叶っての露西亜訪問だった。ただ、ロシアは、そう簡単に自分の望みがかなうほど生易しくはなかった。

 修道院で聖像画(イコン)を描く日常だったが、閉鎖的で退屈極まりない修道院を脱出して、ソーニャという友だちと、ソーニャの男友だちヴォロージャンの下宿で共同生活を始めた。そのヴォローニャンがある事件でシベリア流刑になり、それにつき従ってシベリアに行くことになった。

 この小説は、明治の日本人女性の数奇な運命小説というよりは、露西亜近代の曙がどれほど閉塞していたのかを読む小説だと思った。たまには、このような骨のある小説もたまには良いものだ、と読み終ってから思った。

Photo_2  最後に、もう一冊紹介したい。坂崎重盛『粋人粋筆探訪』だ。私は坂崎の本を読むのは、『神保町「二階世界」巡り 及ビ其ノ他』、『「絵のある」岩波文庫への招待』に続いて三作目だ。

 そして、坂崎の本を読むたびにその“トリビアリズム!!”にいつも感心してしまう。すでに忘れさられたモノ、人を探し出して来る天才だ。

 石黒敬七、徳川夢声、サトウ・ハチロー、池田弥三郎、横山隆一、東郷青児等を知っている人は多いだろう。ところが、正岡容(いるる)、丸木砂土=秦豊吉、菅原通済、佐藤垢石、木々高太郎、小穴隆一等を知る人は少ないかもしれない。

 それにしても坂崎重盛は、玉石混交の中から玉を探し出す名人だ。

【5月9日の歩行記録】

9322歩、6.49㎞、1時間12分、307.3カロリー

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2013年4月13日 (土)

№1934 村上春樹の新刊を買う

 この日は健保の歯科受診日で、東京の健保診療所に出た。ついでにと思って、神保町の書店を見て回ることにした。ちょうど村上春樹の新刊『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)という長ったらしい書名の新刊の発売日だった。大量に刷ったらしく、どこの本屋にも積んであった。

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2013_0412_112113p4120007 そういえば、昨晩の飲み会で仲間が「目から鱗」と話している本があった。その本を買い求めに、三省堂本店に行ってみた。店の入口には、【村上春樹堂】の大きな看板がかかっていた。さらに、店内ではそれこそ山積みに積んでいた。タワー積みといって、2mも高く積んでいた。

 本の脇にはテレビ取材が入っていた。アナウンサーは韓国語を話していたので、韓国のテレビ取材だったのかしらね。朝日新聞報道によれば、三省堂書店は1500部仕入れたという。その割には、本を手に取っている人は少なかった。

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 私は、まずは「目から鱗」の本を探した。あったあった、この本だ。そんなに面白いならと買うことにした。書名は『おどろきの中国』という橋爪大三郎と大澤真幸、宮台真司の対談本だった。ついでにと思い、本年度本屋大賞の『海賊とよばれた男(上)(下)』(講談社)も買ってしまえ。

2013_0412_163034p4120010 さて、村上春樹の新刊はどうしようか。まあ、いずれは読まなければならないだろうと、これも買ってしまった。

 帰りのカバンは、嬉しさ半分で、ずっしり重かったな~。

【4月12日の歩行記録】

10,439歩、7.26㎞、1時間15分、344.1カロリー

 

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